スロップスクワッティングとは?AIコーディングが生む新しいセキュリティリスクを解説
「AIが書いたコードをそのまま使ったら、危険なこともあるの?」
「スロップスクワッティングって言葉を聞いたけど、どういう意味?」
「Claude CodeやCursorを使って開発しているけど、セキュリティは大丈夫?」
AIコーディングツールを使う人が急増した2025年〜2026年にかけて、これまでになかった新しい種類のサイバー攻撃が出現しています。その名が「スロップスクワッティング(Slopsquatting)」です。
難しそうな名前ですが、仕組みは理解できます。そして理解していないと、プログラミングを学んでいる大学生でも被害を受ける可能性があります。
この記事では、スロップスクワッティングとは何か・なぜ生まれたのか・実際の被害事例・具体的な対策まで、初心者にもわかりやすく解説します。
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スロップスクワッティングとは何か?まず一言で理解しよう
「AIのハルシネーションを悪用したサイバー攻撃」
スロップスクワッティング(Slopsquatting)とは、AIコーディングツールが存在しないパッケージ名を提案してしまう(ハルシネーション)という弱点を、攻撃者が先読みして悪用するサイバー攻撃手法のことです。
INODS UNVEILの解説記事では、この攻撃の本質をこう説明しています。
「攻撃者はAIが幻覚で生み出すパッケージ名と同名の悪意あるパッケージを作成し、PyPIやnpmなどのパッケージリポジトリに登録する。ハルシネーションを起こしたコード生成AIが、ふたたび同じ架空のパッケージ名を組み込むと、開発者は攻撃者が登録しておいたパッケージを疑いもせずインストールしてしまう」
出典:INODS UNVEIL「スロップスクワッティングを支えるAIエコシステムの危険性」
「スロップ」と「スクワッティング」の意味
名前の由来を知ると、仕組みがより理解しやすくなります。
「スロップ(slop)」は英語で「泥水・ぐちゃぐちゃなもの」を意味するスラングで、AIが生成する「それっぽいが中身の薄いコンテンツ」全般を指す言葉として広まっています。
「スクワッティング(squatting)」は「先に居座る・占拠する」という意味です。類似した名前のドメインやパッケージを先に取得して悪用する「タイポスクワッティング」という手法が以前からありますが、スロップスクワッティングはその「AIバージョン」です。
この言葉は、Python Software FoundationのセキュリティエンジニアであるSeth Michael Larson氏が命名しました。
なぜこの攻撃が生まれたのか?仕組みを理解する
AIはなぜ「存在しないパッケージ」を提案するのか
スロップスクワッティングを理解するには、まずAIがなぜ架空のパッケージ名を提案してしまうのかを理解する必要があります。
AIコーディングツールは、大量のコードデータを学習して「次に来そうなコードを確率的に予測する」という仕組みで動いています。これはハルシネーション(AIがもっともらしい嘘をつく現象)の一種で、存在しないパッケージ名でも「それっぽい名前」を自信満々に提案してしまいます。
2025年に発表された研究では、この問題の深刻さが数字で明らかになっています。
トレンドマイクロの解説によると、この研究の結果として以下が判明しています。
「16種のLLMが生成した576,000件のコードサンプルのうち、約20%(205,000件以上)が実在しないパッケージ名を推薦していた」
出典:トレンドマイクロ「スロップスクワッティング:AIエージェントのハルシネーションにつけ込む攻撃手法」(2025年7月4日)
AIが提案するコードの5件に1件が、存在しないパッケージ名を含んでいる可能性があるということです。
攻撃者はどうやってこれを悪用するのか
攻撃の流れはシンプルです。以下のステップで被害が生まれます。
攻撃の流れは以下の通りです。
- AIがよく「間違えて提案する」架空のパッケージ名を攻撃者が調査する
- その名前で悪意あるパッケージをPyPI(Python用)やnpm(JavaScript用)などの公式リポジトリに先に登録する
- 開発者がAIツールに「〇〇の機能を実装して」と指示する
- AIが架空のパッケージ名を含んだコードを生成する
- 開発者が「AIが提案したコードだから大丈夫」と思い込み、そのままインストールする
- 実際には攻撃者が用意した悪意あるパッケージが実行される
タイポスクワッティングとの違い
従来の「タイポスクワッティング」は、人間が「googel.com」のようにタイプミスするのを狙った攻撃でした。スロップスクワッティングは、人間のミスではなくAIのハルシネーションを狙うという点が根本的に異なります。
また、架空のパッケージ名は「それっぽい名前」であることが多く、開発者が一目見て「おかしい」と気づきにくいという特徴があります。GIGAZINE の解説によると、幻覚パッケージの38%が既存パッケージと中程度の類似性を持ち、13%は単純な誤字に過ぎない一方、残りの多くは「十分に信憑性を持たせるような名前」であると研究チームが報告しています。
出典:GIGAZINE「コード生成AIによる幻覚を悪用した新しいサイバー攻撃『スロップスクワッティング』が登場する可能性」(2025年10月30日)

実際に起きた被害事例
2026年1月:237のリポジトリへの伝播
note記事(現役エンジニアのIT情報解説)では、実際の被害事例が以下のように紹介されています。
「2026年1月には実際の被害事例も確認されている。あるセキュリティ研究者が、AIが頻繁に推薦していた架空のnpmパッケージ名を先行登録したところ、そのパッケージ名はすでに237のリポジトリにフォーク経由で伝播しており、AIエージェントからの日次ダウンロード試行が続いていた」
出典:note「AIスラップ(粗製乱造コード)がオープンソースを脅かす——サプライチェーンリスクの新しい顔」(2026年4月19日)
この事例で重要なのは、セキュリティ研究者が「善意で先に登録した」から被害が止まったという点です。もし攻撃者が先に登録していれば、237のリポジトリに悪意あるパッケージが伝播していた可能性があります。
AIエージェントが介在すると「人間のレビュー」すら機能しない
スロップスクワッティングが特に深刻なのは、Agentic Coding(AIエージェントに自律的にコードを書かせる手法)が普及するにつれて、人間がパッケージのインストールを確認するタイミングすら消えていく点です。
同noteの解説では「AIエージェントが自律的にパッケージをインストールする時代では、人間のレビューというセーフティネットすら機能しない」と指摘されています。AIエージェントが「コードを書く→依存パッケージを選ぶ→インストールする」を自動でやってしまう場合、人間が介入するタイミングがありません。
スロップスクワッティングとハルシネーションの関係
スロップスクワッティングは、以前の記事で解説した「ハルシネーション」の「実害版」とも言えます。
ハルシネーションとは「AIがもっともらしい嘘をつく現象」でした。ポートフォリオのレポートで誤った情報が混じる、面接で語ったことが事実と異なるといった問題が主なリスクでした。
しかしスロップスクワッティングは、ハルシネーションが「悪意を持った攻撃者によって積極的に武器化された」状態です。「AIが嘘をつくかもしれない」という認識は、セキュリティリスクとして実際の被害につながる段階に進んでいます。
どんな人が被害を受けやすいのか
スロップスクワッティングのリスクは、エンジニア経験の長さに関わらず発生します。特に以下のような状況で被害を受けやすいです。
- AIツールが提案したコードをそのままコピーして実行している
pip installやnpm installのコマンドをAIの出力から何も確認せずに実行している- 使ったことのない新しいパッケージを、AIが提案したからという理由だけで使っている
- AIエージェントに自律的にコード実行を任せていて、インストール内容を確認していない
プログラミングを学び始めた大学生は特に注意が必要です。「AIが提案したから正しい」という思い込みと、パッケージの実在確認をする習慣がまだない状態が重なりやすいためです。

具体的な対策:AIが提案したパッケージを使うときに守るべきこと
スロップスクワッティングへの対策は、難しい技術を覚える必要はありません。習慣の問題です。以下を意識するだけでリスクを大幅に下げられます。
スロップスクワッティング対策として今日から実践できることは、以下の通りです。
- AIが提案したパッケージ名を必ず検索して実在を確認する
- 公式ドキュメントやGitHubのリポジトリを自分の目で確認する
- インストール前にパッケージの信頼性を確認する
- AIエージェントに自動インストールを任せない
AIが提案したパッケージ名を必ず検索して実在を確認する
最もシンプルかつ効果的な対策は、AIがコード内に書いてきたパッケージ名を必ずPyPI(Python)やnpm(JavaScript)の公式サイトで検索して実在を確認することです。数秒の作業ですが、この習慣が被害を防ぎます。
存在しないパッケージ名は検索結果に表示されないか、ダウンロード数が極端に少ない不審なパッケージが出てくることで気づけます。
公式ドキュメントやGitHubのリポジトリを自分の目で確認する
パッケージが実在していても、それが安全かどうかは別問題です。GitHubのリポジトリが存在するか・最終更新はいつか・スター数やダウンロード数が妥当か・メンテナーが実在する人物か——これらを確認する習慣をつけましょう。
note記事でも「最近急に登場したパッケージには特に注意が必要」と指摘されています。
インストール前にパッケージの信頼性を確認する
Pythonならpip install前にpip index versions パッケージ名でバージョン確認、JavaScriptならnpm info パッケージ名で情報確認ができます。インストール前の数秒の確認が、セキュリティリスクを大幅に下げます。
またpip auditやnpm auditといったセキュリティスキャンコマンドを定期的に実行することで、インストール済みのパッケージに既知の脆弱性がないかを確認できます。
AIエージェントに自動インストールを任せない
Claude CodeやCursorなどのAIエージェントを使う場合、「新しいパッケージのインストールは必ず人間が確認する」というルールを設けましょう。AIエージェントの設定で「インストールコマンドの自動実行を許可しない」「実行前に確認を求める」という設定があれば積極的に使いましょう。
なぜこの問題は「AIが普及するほど深刻になる」のか
スロップスクワッティングが特に注意すべき理由は、AIコーディングツールの普及が進めば進むほど、この攻撃の被害規模が拡大するという構造的な問題があるからです。
現在、AIが提案するコードをそのまま使う開発者が世界規模で増えています。576,000件のコードサンプルのうち20%に架空のパッケージが含まれていたという研究データは、AIを使う開発者が増えれば、それだけ多くの架空パッケージがインストール試行されることを意味します。
さらにAIエージェントが普及すると、人間がレビューする機会そのものが減ります。認知負債の問題と同様に、「AIが自動でやってくれる」という便利さが、「人間が確認するタイミング」を奪っていきます。
この問題はツールの問題ではなく、「AIの出力を鵜呑みにしない」という人間側の姿勢の問題です。
大学生・プログラミング学習者にとっての意味
「これは本格的なエンジニアだけが気をつければいい話では?」と思う方もいるかもしれません。しかし、プログラミングを学んでいる大学生にとっても、この問題は直接関係します。
大学生にとって特に重要な理由は、主に以下の2点です。
- ポートフォリオ開発時にAIツールを使うリスク
- 就活・面接でのセキュリティリテラシーのアピール
ポートフォリオ開発時にAIツールを使うリスク
Claude CodeやCursorを使いながらポートフォリオを開発しているとき、AIが提案したパッケージをそのまま使うと、知らずに脆弱なパッケージや悪意あるパッケージを取り込んでしまうリスクがあります。
ポートフォリオをGitHubに公開した状態で悪意あるパッケージが含まれていると、採用担当者がリポジトリを確認した際に問題が発覚するだけでなく、そのコードをベースに作ったサービスを公開している場合は実際のセキュリティ被害につながります。
就活・面接でのセキュリティリテラシーのアピール
スロップスクワッティングという概念を知っていること自体が、就活でのアピールになります。「AIコーディングツールを使っているが、提案されたパッケージは必ず実在を確認してから使うようにしています」という一言は、「ただAIを使っているだけ」の学生との明確な差になります。
AIを使いながらもセキュリティリスクを理解して安全に使えるということは、採用担当者にとって「即戦力に近い人材」のサインとなります。
まとめ|「AIが言ったから安全」は危険な思い込み
今回の内容を振り返ります。
- スロップスクワッティングとは、AIがハルシネーションで架空のパッケージ名を提案する弱点を、攻撃者が先回りして悪意あるパッケージを登録することで悪用する攻撃手法
- 名前は「AIスラップ(粗製乱造コンテンツ)」と「スクワッティング(先占)」を組み合わせた造語。Python Software FoundationのSeth Michael Larson氏が命名
- 16種のLLMが生成した576,000件のコードサンプルの約20%に架空のパッケージ名が含まれていたという研究データがある(トレンドマイクロ解説より)
- 2026年1月には実際に架空のパッケージ名が237リポジトリに伝播し、日次のダウンロード試行が続いた実被害事例が確認されている
- AIエージェントが自律的にパッケージをインストールする時代では、人間のレビューというセーフティネットすら機能しなくなる
- 対策はシンプルで「AIが提案したパッケージ名を必ず公式サイトで検索して実在を確認する」習慣を持つことが最も重要
ハルシネーション記事で「AIの自信は正確さを保証しない」とお伝えしましたが、スロップスクワッティングはその問題が「実際のセキュリティ被害」として現実になった事例です。AIを便利に使いながら、「AIが言ったから正しい」という思い込みを持たないこと。それが、AI時代のプログラマーに求められる最も重要なリテラシーです。
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